歴史的素材と文化財(未完)(4) [研究ノート]

2-3.歴史的素材の多様性に目を向ける 

まち歩きにおける歴史的素材の多様さについて、先に措いたaの事例を中心に、もう少し考えてみる。 

高松のまち歩き「高松松平藩まちかど漫遊帖」で実施したコースで、「ほろ酔い夕暮れ松島町」というものがある。松島町は、高松市街地の東部に位置し、城下町の東の出入り口・今橋へ繋がる在郷町である。町内には高松五街道の一つである志度街道があり、その両側に町家が櫛比し、背後には塩田や田畑が広がる、という景観をもっていた。また、町の東側に流れる御坊川に架けられた千代橋のたもとには、藩の船番所があったとされる。都市部と農村部との結節点、あるいは海上交通と陸上交通の結節点という性格をもった場所が、松島町である。しかし町の東半部は1945年の高松空襲で焼失し、また高度成長期の再開発も加わり、いわゆる歴史的景観はほとんど残っておらず、「どこにでもある、普通の町」にみえる。

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そうした町を、旧志度街道に沿って、町の西側(城下側)から東側(千代橋)に向かってそぞろ歩く形でコースを構築していった。さしあたっての手掛かりは、ほぼ皆無の状態。個人的に「面白い」と思える場所に出向き、店主や近所の方などの話を聞くことから始めた。するといくつかのお店や場所で、地域の関わりをもつ興味深いネタが得られたため、それらを繋ぐことで「高松城下町の東の玄関・松島町界隈を歩き、そこに息づく生活に触れるコース」ができた。主なポイントを列記する。

【讃州堂書店】  大手チェーン店以外では、市内では2件しかない古書店。新刊本と図書館蔵書との間のニッチ商品として、郷土史関係の書籍を充実させている。店主は実はUFO目撃者で、その情報蒐集や体験者の自費出版本の販売のために古書店経営に精を出す。      

【長尾荘】  高松空襲で焼け残った木材や瓦を集めてきて建てられたアパート。変色した瓦に、空襲の激しさが窺える。片廊下式で玄関・便所共用の間取りは、昭和20~40年代の典型的な形。      

【朝日湯】  大正初期創業の銭湯。自家用井戸で創業以来、水を汲み上げ、湧かして湯船に。旧街道に店がたくさん並んでいたこと、舗装されない街道にボンネットバスが走っていたこと、裏の田圃に狸が出て人を化かしたり人魂が出ていたこと、香川県庁舎旧本館(昭和33年竣工)がここからよく見えていたこと、などの昔話を店主が語る。      

【花崎種苗店】  創業(明治27年頃)を示す看板や、大根種を計量する枡や桶、店名入りの前掛けが店内にディスプレイ。志度など近郊農村部からの客が多く、長い付き合いになっている。      

【入江酒店】  千代橋の西詰にあり、船番所跡の道向かい。大型冷蔵庫の上に天保~明治の金毘羅札が約30枚。もと廻船問屋「大紺屋(おおごんや)」で、屋号を記した膳箱や幕府から高松藩主に宛てた書状などが伝来する。店内には1970~80年代のウイスキーのプレート。80年代の貧乏学生の友であったサントリーウィスキー「Q」が未開封のまま、売られている。 

これらのネタは取り敢えず、①都市伝説(UFO・狸・人魂)、②本人が体験した思い出話(街道の賑わい、顧客との付き合い)、③店舗の歴史を示す道具・商品(自家用井戸・看板・計量道具・ウイスキー関連商品)、④人々の暮らしを示す建築(長尾荘・朝日湯)、⑤地域の歴史を刻んだ資料(長尾荘の木材・瓦、大紺屋の金毘羅札・膳箱・書状)、に分類できる。これらのうち、既存の文化財概念あるいは歴史史料としてさほどの違和感なく捉えられるものは、⑤であろう。長尾荘の被熱・変色した瓦は焼夷弾を主体とした高松空襲の戦火を雄弁に物語り、大紺屋の諸資料は江戸時代の廻船問屋の営みや藩との繋がりを示している。これらは市町史に掲載され、あるいは博物館・資料館の展示に耐え得る素材とみることに、おそらく異論はないものと推量される。その意味で、ネタ⑤は正当派の資料(史料)である。

松島ガイド写真.JPG 

しかしそれ以外は、ほぼ④→③→②→①となるにしたがい、正統派の資料とみなすことが難しくなる。ネタ①、特にUFOの話になると、とても既存の枠組みでは捉えられなくなる。しかし、UFOが人間の集合的無意識の投影であるとするC・G・ユングの所説を参考にするなら、UFOの目撃談はある種の心象風景の現れであり、その誘因として地域の問題をみることはできるかもしれない。

少なくとも化かされた話はOKで、UFOはダメだということにはならない。


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