研究ノート 香川県における鉄道橋梁下部構造の考古学的検討(2) [研究ノート]


■2 型式分類

 2-1.橋梁下部構造の構成要素と属性

橋梁下部構造は、橋梁の両端(橋詰)に位置する橋台と、その間で自立する橋脚からなる。                                                                           両者はよく似ているが、橋脚が河川の水流を受け流しながら上部構造(桁)の荷重を支える独立の構造物であるのに対し、橋台は上部からの荷重のほかに背後に続く盛土(築堤)による水平方向の土厚にも耐えることが求められる(註7)。                                                                        このため、橋脚には流水抵抗を少なくするために様々な水平断面形状を採り、上流側には水切りが設けられることがある。                                                                                 また橋台には、両側に翼壁(ウイング)と呼ばれる土留め壁が付随する(写真1)。

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このような構造上あるいは外観の差異の一方で、共通する要素も多い。                                                                                  基本的な構造は、地中に埋設された基礎部分と、その上に構築された躯体部分に大別される。さらに通常観察できる躯体部は、上部構造が直接載る橋座部と、その下側で荷重を支える主体である鉛直部に分けられ、橋座部上面(桁座面)で桁の支承(註8)が載る箇所に床石(ベッドストーン)が設けられることがある(写真2)。

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ところで県内の鉄道橋梁の大半は、1スパン(単径間)の小規模なものである。                                                                                例えば琴平電鉄では、現存する59基の鋼桁橋のうち55基が1スパンである。こうした傾向は、ほかの路線でも同様である。つまり、橋脚を伴う橋梁はごく少数ということになり、分類は橋台の形態を基準に行うのが望ましい。

橋台で外観上の差異をよく表す属性としては、①躯体を構成する素材と施工方法、②橋座部における床石の有無、③翼壁の素材と施工方法、の3者が挙げられる。 ①は煉瓦積み・石積み・コンクリート場所打ちの3者に大別できる。組積造の前2者は、積み方でさらに細分できる。 ②は床石が石製かコンクリート製かで分けられる。 ③は石積みとコンクリート場所打ちに大別でき、前者は積み方でさらに細分できる。

 2-2.型式分類

上記属性の組み合わせから、開通年代順に大別6型式、細別16型式を設定した(第1表、前回記事参照)。

大別型式は属性①~③全てないし大半が整合的に共通するまとまりで設定し、細別型式は属性①~③のいずれかが異なる細かな差異を指標に設定した。

【橋台1型式】 「煉瓦積み躯体+石製床石+乱積み翼壁」橋台(写真3)であり、3つの細別型式(a~c型式)に分けられる。

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躯体の煉瓦積みには、フランス積み(1-a・b型式)とイギリス積み(1-c型式)があり、前者は躯体隅部に隅石を配するもの(1-a型式)と隅石をもたないもの(1-b型式)に細分できる。昭和初期以降の架け替えに伴う橋座部の改修(コンクリート化)事例が多いが、天満川橋梁では床石の存在が確認できる(写真4)。

写真04.jpg 

また、かなりの頻度で茶黒色の焼過煉瓦を装飾的に配した「ポリクロミー」が認められる。翼壁の石積みは、全てが目地の入り組む不定形な乱積みないし布積みであり、上面に笠石、両端に親柱を伴う(写真5)。

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【橋台2型式】 「石積み躯体+床石なし+乱積み翼壁」橋台(写真6)であり、2つの細別型式(2-a・b型式)に分けられる。躯体の石積みは、こぶ出し仕上げ(註9)の石材によるフランス積み風(2-a型式:写真7)とイギリス積み風(2-b型式)がある。橋座部の床石はともにないが、鉛直部とは異なるびしゃん仕上げ(註10で堅牢な平坦面が確保されている。翼壁は、橋台1型式と同じである。

写真06.jpg写真6

写真07.jpg写真7

橋台3型式】 「石積み躯体+床石なし+谷積み翼壁」橋台(写真8)であり、3つの細別型式(3-a~c型式)に分けられる。躯体は、こぶ出し仕上げ石材によるフランス積み風(3-a型式)と長手積み風(3-b・c型式)がある。橋座部には床石がないが、鉛直部と同じこぶ出し仕上げのようである点で、2-a・b型式とは異なる。翼壁は谷積みであるが、斜め方向の目地が通っており鋸歯状に噛み合っていない、やや不定形な谷積み1(3-a・b型式)と、目地が鋸歯状に噛み合う定型的な谷積み2(3-c型式)がある。

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【橋台4型式】 「石積み躯体+石製床石+谷積み・小口積み翼壁」橋台(写真9)であり、4つの細別型式(4-a~d型式)に分けられる。躯体は、こぶ出し仕上げの長手積み風(4-d型式)・小口積み(4-a・b型式)・イギリス積み風(4-c型式)がある。橋座部には、びしゃん仕上げの花崗岩製床石が据えられる。翼壁は4-a・c・d型式が谷積み2であるが、4-b型式は小口積みである。

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【橋台5型式】 「コンクリート躯体+床石なし+谷積み・コンクリート翼壁」橋台(写真10)であり、3つの細別型式(5-a~c型式)に分けられる。躯体はコンクリート打ち放しであり、翼壁は谷積み2(5-a型式)、玉石練積み(砂岩礫をコンクリートで埋め込んだ積み方:5-b型式)、コンクリート打ち放し(5-c型式)がある。

写真10.jpg 

橋台6型式】 「コンクリート躯体+コンクリート製床石+谷積み翼壁」橋台(写真11)である。躯体・翼壁は5-a型式と同じであるが、橋座部に躯体と一体になった床石を作り出す。

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