はじめに [松田英治の中世山城踏査記録]

小さい県ながら、香川には、中世の山城が多い。

戦国時代、讃岐国からはついに戦国大名は誕生しなかった。畿内に近く、室町幕府の重臣・細川氏の中心的な領国であり、細川氏没落後は三好氏の支配を受けていたためである。しかし、細川・三好氏を支える小領主たちが割拠しており、信長・秀吉・毛利・長宗我部とも関わりをもちつつ、複雑な政治状況が作り出されていた。中世特に戦国期の山城が多いのは、そうした背景があるからだとも思われる。

10年ほど前、香川の中世山城の調査が行われ、各城の具体的な構成(縄張り)が明らかにされた。その成果は、香川県教育委員会の出した報告書『香川県中世城館詳細分布調査報告』(2003年)にまとめられている。県内の図書館には置かれているはずなので、ぜひご覧いただきたい。

調査にあたり、重要な役割を果たしたのが、県内各地の城郭研究者である。彼らが、草木の生い茂る山に分け入り、地形や遺構をにらみ、詳細な図(縄張り図)を作成した。城郭研究者には、行政で埋蔵文化財調査を担当する人もいるが、自由な発想と厳しい観察眼をもつ在野の研究者たちもおられる。在野の研究者こそ、中世の城が文化財として保護される前から、城跡を地域の貴重な文化遺産と考え、保護と価値付けに力を尽くしてきた人々である。

松田英治さんは、香川を代表する在野の城郭研究者であり、香川の山城を歩きつくしている方だ。松田さんのすごいところは、納得いくまで何度も山に入り、地形の起伏に山城の痕跡を読み取ろうとする「執念」にある。

松田さんが求めるのは、あくまでも「事実」である。その山城のつくりがどのようになっているのか、こつこつと、また慎重に明らかにしようとする。だから、「おらが町の城自慢」にはならない。ありえないような大城郭を夢想したりはしないのだ。「事実」が知りたい。それが松田さんの原動力になっているのかもしれない。

そんな松田さんは最近、長年の調査をまとめる作業に没頭されている。自分が知り得たことや、考えたことを、研究者や多くの人々に知ってほしい。そうすることで、地域に埋もれた城跡の価値を知ってもらい、後世に伝えることができるのではないか。そうお考えになっているのだ。

そこでこのコーナーでは、松田さんの諒解をいただき、その成果の一部をご紹介したい。行間から松田さんの観察力や思いを読み取っていただければ幸いである。また、豊富な写真や図に導かれ、冬枯れの山城の世界を探索し、中世山城のもつ迫力を体感してみることをお勧めする。

IMG_0045.jpg


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。